『マルクス四谷怪談の巻』西山朱子 (岡田雄介・西口浩一郎)

出会うべくして出会ってしまった「四谷怪談」とマルクス兄弟… 何の事だか「?」でもオッケー。 日本一有名かつ最恐といわれる鶴屋南北の怪談を、みんなが大好きなお化けコメディとしてリノベーションしたホットなニューシネマ──。ご存知おイワさんとの結婚を望んでいるが許されない浪人イエモン。下男でありながら主人の妹娘(しかも人妻)おソデに岡惚れしているハーポ直助。 折しも敵方に殺された殿様の仇討騒ぎに巻き込まれたイエモンと直助の欲望が暴走してお望みどおりに脱線する。悪党どもの計略に、 あんなにおしとやかだったおイワさんの運命やいかに! 仇討はどうする!

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『マルクス四谷怪談の巻』2013/47min/MiniDV/スタンダード

 【staff】演出・編集・整音:西山朱子 脚本・撮影:西山洋市 録音:黄永昌、高島良太、海田晃弘 美術:隈弥生 応援:川井祟満、長島良江

【cast】岡田雄介 西山朱子 別府裕美子 名久井茉菜 粟津慶子 内木英二 とちかねたくま

海田晃弘 布川恵太 四宮秀俊 西口浩一郎 ゴン・ユソン 金子一石 

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『マルクス四谷怪談の巻』の演出について   西山朱子

  

『マルクス四谷怪談の巻』は、鶴屋南北(1755-1829)の歌舞伎台本『東海道四谷怪談』の登場人物にコメディ俳優・マルクス兄弟の二人をmixした(イエモン+グルーチョ、直助+ハーポ)ら成った、不思議な脚本を西山洋市さんから託され、演出した映画です。

この不思議さは、“南北特有の綯い交ぜ”(南北は殊にベクトルが逆のものを同時に描く綯い交ぜを多用した。例:葬式と結婚式が同時に行われる、姫君が遊女になったり…etc)が四谷怪談にあるというのに更に、江戸時代という和の設定にマルクス兄弟という洋がブチ込まれ(時制も戦い合う)、怪談にコメディーセンスがブチ込まれ、それでいてストーリーが破綻するどころかおかげで展開してゆく─、そして、ナンセンスが発する底抜けな陽気に満ちたものでした。

これを具象に立ち上げてゆく作業は、まずは小道具、衣装のチョイスから始まり、美術を担当して下さった隈弥生さんの勢いに押されて進んでゆきました。隈さんからは時代劇サイドからの量と種類が湧き出る泉のように提案され、上記のように様々なベクトルが混在している『マルクス四谷怪談の巻』に必要かどうか、また、衣装はそれぞれのキャラクターに合うかどうか、時代劇の比重を推し量りながら、“要る要らない”と“着たり脱いだり”を繰り返し、ようよう外形的に整えてゆきました。

江戸時代の時代劇であってマルクス兄弟がいて怖くてコメディーにしなくては面白くならない、と、脚本からなぜか感じてしまう「作りの要請」は、参加者皆の無意識にも働きかけていたと感じています。明らかに衣装等の外形的な混在を見せるだけでは脚本の面白さを具象化できない、演技でやりたい、という意気を読み合わせの段階から感じました。

セリフは全体が江戸言葉に寄ったもので、時折り流麗な歌舞伎調。そして現代にすり寄った笑いを誘う個所は一つもないというのに何故かポップな匂いが立ってくる…、そこを捕まえねばなりません。

また、私たちの肉体は、モンゴロイドとしての器質的な動かし方があり、そこに文化的・社会的な動かし方が加わっています。そこに個人的な動かし方が加わり、おのおのの個性と呼ばれるものが現されています。この段階を(私の頭の中で)踏まえ、出演者に備わっているものを利用して演技して頂こうと考えました。

これは時代劇ですよ!という印を刻むために時代劇の型を拝借しながらも使い過ぎず、また現代のモードに媚びないラインに落とし込む、けれど現代の印を刻む。役を演じることによって出てくる演じ手自身の魅力を飛躍させたり逆に戦わさせたり、そんな試みがご覧いただけると思います。

 

具体的にちょっと書きますね。

 

主人公イエモンとイワの結婚を認めない兄・四谷左門は布川恵太さんに演じて頂いたのですが、左門は嫌味で高圧的な人物です。が、それだけでは、ストーリーの役割としては十分でも脚本から感じるキャラクターの面白さに繋がってゆきません。どうやるか。布川君は左門と真逆の人物なので、それを利用して仕上げる模索が始まりました。

読み合わせで左門的な高圧さが出るようセリフの調子(声色とメロディー)を工夫しましたが、どこか足りない、どうしよう、ま、何とかなるか、と現場に臨みました。セリフに高圧さへの背伸び感を含ませて喋ってもらうのも手ですが、違う。高圧的に言うときは大いにやって貰わねば面白くないという勘を信じながら、また、目線の指示をしながら、もっとキャラクターにとって核心的なことをどこかでやらねばならない、と撮影を進めてゆくうち、下男ハーポ直助に伝令を命じて一人ぼっちになった短い瞬間、人と会話をするときには威圧的なのに一人取り残されると所在無げになる左門の姿を発見し、あ、面白い、といただきました。そりゃ威圧感というものは相手がいてこそ出せるものですが、常に毛穴からしゅーしゅーと、犬猫小鳥までをも威嚇している人物ではなく、一人になったらどこか頼り無げな人物として映すことが出来ました。

また、これも短いショットですが、結婚の許しをエサにイエモンを仇討ちに同行させながらも、「仇討ちが成就しなければお前とは何の関係もない。無駄口をきくな」と命じて背を向ける向き方が、まー絶妙な感じに掬い撮れました。言うけど逃げるように背を向けるニュアンスです。こうしてハリボテの高圧さのある珍奇な人物が、布川君自身の、左門と真逆な性質とぶつかり合って出現していきました。

さて、それには左門を取り巻く人々の「受け」の演技も必要です。下男ハーポ直助はもともと人を食ったようなキャラクターなので当たり障りのない応対をし続けますが、そんなハリボテの威厳を持った左門を兄として持ったイワ、別府裕美子さんのふるまい方。仇討ちの出発を決める、─偏屈な兄を立てながらも、突然の依頼に困惑するイエモンを前に、対立する二人の緩衝剤となって説得してゆく─、詰まった画面の中で目線が交錯し合う冒頭の場面は、別府さん由来の軽やかさに促されるように運ばれてゆきます。この兄がいてのこの妹、そしてその恋人イエモン、このキャラクターの違いと関係性の妙をズバッと軽快に画面に表せる、演出していて大変小気味良い脚本でした。

 

忙しく書いて恐縮しますが、えーと、役ひとつひとつを出演者の皆さんと工夫し合いました。

いろいろ発見していただけたら嬉しいです。

必要なことを最低限しかやってないのに、必要最低限だからこそ面白いという面白さを楽しんでいただけると思います。

─ああ! こうやって書いてきたすべては、シンプルに「“出鱈目(でたらめ)”の試み」と言ってもいいですね。笑。出鱈目(でたらめ)の語源は『マルクス四谷怪談の巻』の作りに似ています。その場その場を勢いよくいなしていく、そんな映画です。出鱈目をどうぞ楽しんでいただきたく!

で、トークショーもお楽しみいただけましたら幸いです。ぺこり。

 

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cast profile ────────

岡田雄介(イエモン):制作『West Mountain01 突破口』(11)、『West Mountain02 父の夢』(12)
 出演『吸血鬼ハンターの逆襲』(西山洋市/08)、『菊と桜』(西山洋市/11)など

西山朱子(ハーポ直助):監督『首切姫彼岸花釣』(10)
 出演 西山洋市作品『桶屋』(00)、『稲妻ルーシー』・『稲妻INAZUMA(04)、『死なば諸共』(06)、『菊と桜』(西山洋市/11)。『蜘蛛の国の女王』(常本琢招/09)、『それを何と呼ぶ?』(長島良江/09)、『the place named(小森はるか/12)など

別府裕美子(イワ):監督『五尺三寸』(04/みちのく国際ミステリー映画祭角川オフシアターコンペティション入選、ぐんまショートフィルムコンクールグランプリ)、『地獄の門』(06)、『クシコスポスト』(09/海外映画祭でも上映)
 役者活動はしていないが、時たま出演もする

名久井茉那(ソデ)出演『kasanegafuti(西山洋市/12)
布川恵太(四谷左門):出演『INAZUMA 稲妻』(西山洋市/04)など
四宮秀俊(与茂七):照明『モノクロームの少女』(五藤利弘/09)
 撮影『それを何と呼ぶ?』(長島良江/09)、『怒る西行』(沖島勲/09)、『スリー☆ポイント』(山本政志/11)、『へんげ』(大畑創/11)、『Playback(三宅唱/12)など
とちかねたくま・栩兼拓磨(小平):監督『タートルマウンテン』(09)
西口浩一郎(三太):出演『西みがき』(井川耕一郎/06)、『吸血鬼ハンターの逆襲』(西山洋市/08)、『BMG(松浦博直
/09)
ゴン・ユソン(お梅):映画初出演。韓国からの留学生
粟津慶子(桔梗):監督『犬情』(03)、『収穫』(09)
内木英二
(モロノウ):出演『運命人間』(西山洋市/04)、『0093 女王陛下の草刈正雄』(篠崎誠/07)、『イエローキッド』(真利子哲也/09)、『kasanegafuti(西山洋市/12)など
海田晃弘(ハンガン):監督『パメラ・ジオキシン』(麻生忠・平澤博・蓼沼風太・宮崎大祐と共同監督/11)、『殺しのライセンス』(12)
 出演『タートルマウンテン』(とちかねたくま/09)、『荒野のゴーストライター』(西山洋市/11)、『west mountain01 突破口』(West Mountain/11)、『west mountain02父の夢』
(West Mountain/12)
金子一石(薬屋):監督『結晶作用・ダイアモンドの出来るまで』(10)