『蜘蛛の国の女王』常本琢招 (久遠さやか)

気鋭の女性建築家・映子は、憧れだった先輩女性建築家・美子と再会した。今は職もなく生きている美子を、自分の事務所に雇ってあげる映子。そこから、美子の仕掛けた恐るべき罠が展開していく・・。怪物のような女とヒロインの息づまる心理戦を描く。久遠さやかのクールな美貌。西山朱子の圧倒的存在感。そして核弾頭・粕谷美枝──。

映画から遠ざかり、TVの世界に行っていた常本の、7年ぶりの映画復帰第一作。この後、『アナボウ』(2010)、『蒼白者 A Pale Woman』(2012)と続く。

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『蜘蛛の国の女王』2009/54min/DV/16:9

【staff】製作・監督・脚本:常本琢招 プロデューサー:北岡稔美 撮影・照明:志賀葉一

【cast】久遠さやか(『深呼吸の準備』) 西山朱子(『INAZUMA稲妻』) 粕谷美枝 佐藤幹雄 山崎和如 山田広野(声)

<二回目>2013.5.18(sat)のみ上映

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『蜘蛛の国の女王』について(常本琢招監督の前説

 

今回は、以前よりやりたかった「女同士の心理戦」という枠組みの映画に挑戦してみました。アルドリッチの『ふるえて眠れ』、ロージーの『秘密の儀式』、シャブロルの『女鹿』など、女同士が精神的バトルを繰り広げる一連の映画に魅せられてきた僕は、最近その種の映画が作られないことに不満を感じ、なら自分で造ってみよう、と。

 

しかし問題は、メインキャラクターに、今まで見なかったような魅力的かつユニークな「悪の女」のキャラクターを造り出したいと思ってしまったこと。現代日本映画で、説得力のある悪役なんて成立させられるのか?

 

 

『座頭市』のどれかで森雅之が演じた酷薄な盲目の金貸し(だっけ?)のように、そこにいるだけでを感じられるような秀逸なキャラクターを造れれば最高だが、難易度が高い。ならばと開き直って、戯画化された悪キャラでお茶を濁すのは嫌だ。特に女性の悪役の場合、分かりやすい「悪女=ファム・ファタール」キャラは日本映画だとパロディにしかならなくなってしまうという危惧もあって、どうすりゃいいと悩みました。(神代+酒井和歌子の一連の悪女モノはもちろんあるのですが、あのテンションの高さ、手を出すと失敗するのは、お分かりですね)

 

 

こんなときに指針になったのは、なぜか『ゴジラ』でした。理由もなくやってくる、「理不尽な暴力」を発動する圧倒的な存在にしよう、と思ったのです。今回は、精神的暴力ですが。

 

理不尽、を下手にやると『ファニーゲーム』になってしまいますが、女性はもともと理不尽な存在なので、そこに賭けて、今回はキャラクターを作ってみました。抽象的な説明で分かりにくかったら、すみません。映画を見てください。

 

そんな複雑なキャラクターを、西山朱子さんが多彩なニュアンスで魅力的に演じてくれております。感謝しております。

 

 

そして、この映画の主演女優は、久遠さやかさんです。

 

久遠さんは、岩松了の「隣りの男」という舞台を見たとき、感情の微妙な動きのニュアンスを、オーバーなアクションなしに表現できる能力を感じて、強く印象に残っている女優さんでした。その力量に比して、あまり役に恵まれていない女優さんという認識があり、今回お願いしました。

 

今回のヒロインは、理不尽な感情の暴力に翻弄されまくる、いわば「受け」がメインの、難しい役どころ。魅力を出すのにも苦労する、やりづらい役です。

 

実際に久遠さんに動いてもらうと、やはり巧い女優さんでした。しかし今回は、久遠さんが芝居の巧さを超えて、存在の凄さをにじみ出てくるのを待ちたかった。そして久遠さんは、それに答えてくれたと思います。

 

 

それからもう一つ。この映画では、久々に「自分で脚本を書くこと」を課しました。

 

商業映画でデビューして以来、僕は有能なシナリオライターたちに助けられて何とか仕事をしてきました。他人に書いてもらうことで作品が膨らむ、と信じてのことでしたが、今回は、自分が書きたいことが一体何なのか、を裸になって知ってみたかったのです。自分の力量のなさを痛感する結果にはなるだろうが、自分が「どうダメか」を知るのもよかろうと思いました。

 

 

難行苦行の末、書いたシナリオでしたが、書いてみてビックリ!Vオリ時代に自分がいろんなライターに書いてもらったシナリオと同じテーマになっていたのです。すなわち、オブセッションに取り憑かれていく女が自壊するけど、そのことが幸せ、というお話(井川耕一郎さんからはそのテーマを「ああ、ふりまわされたい」と端的に要約されましたが)。

 

結局今回も!雀百まで・・・ということでしょうか。

 

 

今回の映画の最大の功労者は、プロデューサーの北岡稔美さんです。北岡さんが映画を作ろう、と言い出したのは5年ほど前。それから、不屈の熱意で監督の尻を叩き続けてくれたとともに、現場成立までの数々の難関を乗り切ってくれました。加えて、要求レベルの高い監督についてきてくれた、中矢名男人くん以下、若いスタッフの努力にも感謝しています。

 

そして、僕が映画鑑賞者として最も尊敬する人物、「映画の神様」と尊敬してやまない広瀬寛巳氏に、20数年前に知り合って以来ようやく、スタッフとして参加してもらったのも、うれしいことの一つです。

 

 

とにかく、一本の自主映画を撮りあげました。

2009.3.4付けプロジェクトINAZUMA BLOGより抜粋